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左右分離型キーボード「れつぷり!!」を作った話 #レツプリ祭り2024

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この記事は「キーボード #2 Advent Calendar 2024」24日目の記事です。

2017年に日本に持ち込まれ、その後CorneやHelixを経て国内の自作キーボード=左右分離型というイメージを決定づけた「Let’s Split」キーボード。

2024年に突如「これを今の設計でいい感じに作り直してみたい」と言った言い出しっぺが年末ギリギリに完成させた話です。 #レツプリ祭り2024

れつぷり!!とは

れつぷり!!外観

「れつぷり!!」は4行12列(4x6が片手)の左右分離型キーボードです。主な特徴として、

があります。

Type-Cケーブル接続

Type-Cによる左右間接続

オリジナルのれつぷり!!のPCとの接続はPro Microマイコンボードを使ったMicro-Bコネクタで、左右間接続はTRRSケーブルを使用したものになっていました。

現在ではMicro-Bコネクタからより使い勝手の良いType-Cコネクタが主流になりましたが、TRRSコネクタは現在でも多くの左右分離型キーボードの左右間接続として用いられています。

TRRSケーブルの問題点

TRRSケーブルによる左右の接続において課題として挙げられるものとして、

があります。

ケーブルのショートはTRRSの構造上挿抜する方向に接点が並んでいるため、挿抜の途中で電源がその他いずれかの回路とショートする可能性が回避できません。ショートした場合最悪マイコンが壊れてしまったりします。

「動作中にそんなことするわけない」と思うかもしれませんが、人類は愚かなので可能性のあることはいずれ起こります。起こりました(一敗)

今でこそ自作キーボードが認知されてきて昔よりかは入手しやすくなってきてはいますが、見栄えが良いケーブルとなると意外といい値段がしたりしてやや難ありです。

Type-Cに置き換えることのメリット

そこで左右間の接続をType-Cのケーブルに置き換えることによってこの問題を解決します。そもそもホットプラグを想定しているUSBで使われているケーブルなので動作中に抜き差ししても問題がありません。

また、世の中に大量にType-C to Type-Cのケーブルが出回っており(見た目を求めなければ)100円ショップでも入手が可能な入手性とコスパの高さが魅力です。

誤った接続における破壊

しかし万能かに見えるType-Cコネクタを使った左右間接続にも欠点はあります。それは 想定していないケーブルが刺さったことによる破壊 です。

通常、左右分離型キーボードのケーブルの接続はこのようになっており、正しいポートに正しく接続されていれば何も問題はありません。電源であるVBUSの電流はPCから最初に接続されたキーボードに流れ、もう一方のキーボードに向かって流れていきます。

正しい接続

しかし仮に片手のキーボードの両方から、PCとの接続ケーブルが刺さったときにどうなるでしょうか。

通常Type-C to Type-CケーブルでPCなどのホストとキーボードなどのデバイスが刺さった場合、お互いがホストとデバイスの組み合わせであることが分かった場合でないと電源が入らない仕組みになっています。この辺はよく「CC1とCC2に5.1kΩでGNDに繋ぐんだぜ」と言われている話になります。

ただし”A to Cケーブル”などと呼ばれている、USB Standard-AコネクタとType-Cコネクタのケーブルはそのような仕組み無しに常に電源が入るようになっています。そのため、左右間接続のためのポートがUSB Type-Cにおけるデバイスとして通知されなかったとしても、A to Cケーブルからの電源が入ってきてしまいます。

そうなると何が起こるかというと、PCとの接続でPCから供給されているVBUSと、左右間接続のポートから誤って供給されてしまった電源が衝突してしまいます。この時、わずかでも電圧に差があった場合、PC側に逆流してPCを破壊してしまうといった恐れがあるのです。

正しくない接続

PCも何も考えていないわけではないので逆流してくる電流を止める回路はあると思いますが、万が一高いPCが壊れて泣くのは愚かな自分なので、対策を入れ込むことにしました。

電源回路に保護回路たくさん入れた

今回設計した「れつぷり!!」では、電源部分に多くの保護回路を入れました。一部冗長になっているので正直入れなくても変わらないものもありますが、今回は全部突っ込みました。

公開されているキーボードの設計の多くはポリヒューズによる過電流保護と、D+/D-ラインに入れるESD保護ダイオード程度です。消費電力が小さいキーボードであればこの程度で問題になることはあまりないですが、LEDなどのライティングで一丁前に電力を食うデバイスと化している場合はぜひとも参考にしてみてください。

Type-C電源基板の回路図

VBUSの保護

データラインの保護

左右間の逆流保護

左右間接続に電源が入ってきた時、PC側のポートに逆流しないようにする回路を追加しています。トランジスタ2個とFETで構成されたこの回路は、左右の電圧を比較して左側(=PCの方)が低くなるとFETでカットする動作になっています。マイコンボードとかでよく使われている形です。

逆流防止というとキーマトリクスでも使われているダイオードではなくなぜ部品が多いこちらを使うかと言うと、通常のダイオードには順方向電圧(1Vちょい)があり、ダイオードを通過した後の電圧が順方向電圧分下がってしまって効率が悪くなってしまうためです。

3Dプリント製ケース

プリントきれい

今回れつぷり!!のケースを3Dプリントで作りました。イメージはold Macのデザインを意識して、横方向の溝と下の縦方向の溝でキーボード全体が薄く見えるようになっています。またキーボード全体としてタイピンク角度として5度のチルト角を持っています。

ケースに基板を固定する

また今回チャレンジしたかったこととして、後述するトレイマウントとネジを隠ぺいしつつ1ピースで完結するという要素を盛り込みました。この後紹介するメイン基板と分離した電源基板をそれぞれケースにネジで確実に固定できるようにしました。ガスケットマウントのように面倒な位置合わせや挟みこみは無しで簡単にアクセスできます。

このために(?)Bambu LabのP1Sを導入しました。6年間使っているAnycubic i3 Megaからのジャンプになり、何もしなくても安定して高速に出力できて隔世の感があります。デフォルト0.2mmピッチの出力は片手2時間ぐらいでできました。写真のケースは0.1mmピッチで両手を同時に出力し10時間で印刷できました。

セパレートした基板の設計

電源部が分離した基板

左右分離型キーボードなので左右がセパレートしているのはそうなのですが、今回のれつぷり!!では電源とUSB Type-Cコネクタを含む回路を別の基板として分離させ、メインの基板とフラットケーブルで接続する形にしました。これにより、左右のキーボードでは電源基板部分を別に設計し、メインの基板は共通のものを使えるようになりPCBAのコストが若干安くなりました。

電源基板は左右間接続のUSB Type-Cコネクタにオレンジ色のコネクタを使用して多少は区別がつくようにしてみました。 FETの向きがなんか変なのは、回路図と基板図でFETの向きを間違えたためです。1ミス

RP2040搭載

メイン基板はラズパイピコとして知られているRP2040マイコンを使用しました。プログラムメモリとして外部にSPIフラッシュが必要で直行配列のキースイッチの間に収めるのがやや難しかったですが、何とか収まりました。ただ今回作った初回の基板ではフラットケーブルのコネクタの向きをミスった他、位置が微妙でホットスワップソケットを削らないと使えない感じになってます。2ミス

れつぷり!!ロゴ

ブッシュによるトレイマウント

トレイ形状のキーボードケースの底面にキーボードの基板およびプレートをねじ止めする構造をトレイマウントと呼びます。安価な60%ケースでよく採用され、ケースの底面にねじ止めされるので打鍵の衝撃が直接ケースに伝わってあまり感触がよくないなどで嫌煙されがちな構造でもあります。

ブッシュのマウント

れつぷり!!はこれに似たマウント方式ですが、ブッシュを使ってクッション性を高めた構造を採用しました。これは一般的にはケースから配線を出すために使われているシリコン製のブッシュを使用したもので、中央がちょ うどM3のネジが貫通できる穴径でできています。基板側にちょうどよくブッシュがはまる穴を開けておき、キーキャップ用のOリングとともに固定することでちょうどいい感じの高さに固定されます。

基板にブッシュが固定される プレートからはツライチ

(ところでこのキースイッチの詳細が分かりません)

ネジの頭はプレートとツライチになる高さになり、キーキャップをはめた後は表にネジが露出しない構造にできました。打鍵感的にはほどよく固めなダンパー効果らしきものを感じ取ることができ満足しています。

メンテナンス性的にはM3より小さいネジにしたほうがよさそうな感じもします。その場合はドローン用として出回っているブッシュとかがよさそうです。

売るの?

れつぷり上から

今のところはキーボード自体の頒布は考えていません。いろいろとするべき(特に基板の)点があるうえ、頒布は頒布でまた別のハードルがあるのでモチベーションがあったら来年3月のキーケットあたりに出せたらいいかもねといったところです。 公開するにしてもいろいろと修正してからになりそうです。

お知らせ

今回作ったキーボードの特にUSB Type-C周りに関してまとめた本「キーボードオタクのUSB-C冒険ガイド」が今年のコミケ105にて頒布する予定です。

自作キーボードで必要になる最低限のUSB Type-Cの解説の他、この記事からさらに掘り下げた保護回路の話も掲載されています。「なんかUSB Type-Cコネクタを使うときは5.1kΩを付けるんだけどなんで?」という人におすすめです。12月30日(月)西あ-10a 「plus TK2S」にてお待ちしております。

表紙

この記事はれつぷり!!で書きました

おわり


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